イーハトーヴ〜アート@つちざわ

イギリス海岸

今月6日まで行われている岩手県東和町でのアート展「アート@つちざわ」へ。知り合いの斉藤道有氏が出展していることからこのプロジェクトのことを知り、「土・日の方がにぎわってていいと思う」と聞いてはいたのだが、仙台から140キロほど離れていることがわかり、前日からほとんど寝てばかりいたために珍しく早起きできた今日、急遽行くことにした。
東和町土澤地区は、宮沢賢治が生まれ育ったことで人気のある岩手県花巻市から東へ数キロほど入った山間の町で、遠野への路線上に位置している。地域の有名人としては洋画家・萬鉄五郎を輩出し、町の小高い丘陵地の上には84年に開館された萬鉄五郎記念美術館が立っている。
仙台を8時前に出発し、ゆるゆると国道4号線を北上。花巻に着いたのはちょうどお昼頃で、とりあえずは宮沢賢治の里ということで花巻農業高校の敷地内に建つ羅須地人協会を見、イギリス海岸でいい感じの和舟を見つけたりした後、土澤へ向かった。
ちなみにいつか宮沢賢治の『ビジタリアン大祭』をモチーフにしたアート作品をつくれないかと考えている。内容的な点はもちろん、ああいった驚きはアートに不可欠な要素のように思う。
土澤に到着したのは午後1時頃。平日のため、閑散としているだろうと思っていたけれど、きれいに並ぶ商店街には万国旗がはためき、おそらくは周辺地域の方たちと思われる年配の集団が、アート・マップ片手に思い思いの感想などを述べながら商店街を渡り歩いていく姿がひっきりなしに見受けられ、けっこう盛況。
まずは抜け落ちた歯のように点在する商店街の臨時駐車スペースに車をとめ、インフォメーションをさがすと、レンガ造りのモダンな(「モダン」がある種の古風を意味するところがおもしろいといつも思う)建物がそれで、ここでマップやチラシなどをゲット。さっそくマップ片手にアート散策をはじめる。が、そこではじめて知ったのは、展示場所が77箇所、参加作家総勢122名という圧倒的なボリューム。今日は7時からなので、4時くらいには発たねばならない。こんなにあるなんてしらなかった。しかもまじめな性格なので、なぜか端の方からていねいに見てしまう。
ということで、気に入ったものに少し時間をかけすぎたきらいはあるとはいえ、結局、4時までの3時間で私が見て回れたのは全体の3分の2ほど。77箇所というあぜんとするほどの展示箇所については、はじめ泣きが入りそうだったものの、まわりはじめてみると展示場所相互の距離が思いのほか近く、本当に町全体、商店街全体が密集したひとつの展示スペースになっていることがわかる。これほど密集した場所にこれだけのスペースを確保するのはさぞたいへんだっただろう。
そう思いながらしらみつぶしに見て歩いていると、かなりの場所の名前が「旧〜」すなわち空き店舗であることにも気づく。中には昨日店を閉めたむねシャッターにはり紙がはられている店舗まであり(展示は別の店で行われていた)、商店街の低迷が豊富なアート空間の提供を可能にしていることには複雑な思い。
町の方の話やチラシを総合すると、このアート展は3年ほど前から積み上げて来た活動上にあるもので、特に前述の萬鉄五郎記念館が中心となって積み重ねて来た町おこしの企画だという。「街かど美術館実行委員会」という名称からもわかるように、「まちじゅうを美術館にしよう!」という発想で、まさに文字通り、目抜き通りに面した商店街の店舗はほとんどが何らかのかたちでアート展示にスペースを提供し、中にはおそらく普段は生活空間と思われるような家の二階を開放したり、離れを開放したりしているところもあって、それがしかも1か月という会期を通じて提供されているわけで、このおだやかな街に貫かれている強い意志を感じずにはいられなかった。
お店の方も慣れたもので、訪れた私に「こことあそこにありますからどうぞゆっくり」とおだやかなもてなし具合。あちらこちらに蛍光色のパーカーを着たスタッフの方もいて、クローズしている展示やわかりにくい場所の案内などをていねいに行っていた。
参加作家はいわゆるアマチュアの方から一線で活躍されている方まで同列の表記で、あわただしくまわる向きにはすこし不便なマップかもしれない。が、片端から見ていく分にはとても分かりやすく、大きさもちょうどいいマップである。私が見ることができた中では、真板雅文さん、倉重光則さん、原田拓さんの作品が好みのインスタレーション。知り合いの道有くんの作品もなかなかの力作でした。
途中、お昼にと入った和食店「いけ田」はおしゃれなたたずまいながら板さんがいて、11:30〜2:30までやっている日替わりランチの刺身定食750円(コーヒー付)は、味・ボリュームとも申し分なく、なんでこんなに安いんだろうとびっくりしてしまう(しかも山あいなのに)。アート・マップとは別に「こだわりの店編」なるマップも配布されていて、これがアートマップとほとんど同じ体裁でつくられているのは、アートとお店とを同列に「見せる」こころみなのだろうか。
週末などは人出がかなり多いらしいので、きっとかなり雰囲気がちがうだろうけれど、私が見て来た「アート@つちざわ」は、アートのしっかりしみこんだおだやかな街といった趣でした。機会あれば見られなかった展示を見に行きたいと思います。あるいは、イーハトーヴ観光がてらにアート展をやっていないこの場所を歩いてみるとか。