カズオ・イシグロ『日の名残り』

日の名残り コレクターズ・エディション [DVD]
カズオ・イシグロ原作の小説の映画化『日の名残り』(ジェイムズ・アイヴォリー監督、アメリカ、1993年)を観る。原作よりいいとか悪いとかいうものではなく、補完的な意味でたいへん原作とよい関係を築いている映画だと思う。
「英国のお屋敷」はやはり映像で見せられるととてもわかりやすく、説得力があるし、回想シーンや細かな設定なども、饒舌な説明をひかえ、ほんのすこしのヒントで描かれることで、原作を読んでいる者にも配慮したものになっているように思った。
原作との大きな違いは、ダーリントン・ハウスの新しい持ち主に、かつて屋敷で行われた会議のおりに、紳士淑女を「アマチュア」呼ばわりしたルイス氏がなっていることで、これは小説ではあまりに予定調和的だろうが、2時間の映画の中では計算されたシナリオとしてとても説得力があった。
主演のアンソニー・ホプキンスは20年たってもほとんど変わらない、というのも実に象徴的な意味がこもっていて、より高次のリアリティ、みたいなものを読み取りたく思った。