「色のコスモス形の宇宙」

アーグネッシュ・フス

長野の中学校で行われている「とがびプロジェクト」関係で知り合いになった若林文夫さん、アーグネッシュ・フスさんの銅版画家、陶芸家のご夫婦の展覧会を、長野県須坂市須坂版画美術館へ見に行く。
私の出展作「戸倉上山田アート温泉」の中で、戸倉上山田のアート・シーンを調べるうちに浮かび上がってきたキーパーソンであり、「とがびプロジェクト」の行われている戸倉上山田在住。プロジェクト会期中にはこちらからおうちにお邪魔したり、逆にご家族でプロジェクトを見に来ていただいたり。
特に連れて来ていた小学5年の娘さんのはしゃぎようは気持ちがいいくらいで、「どんな展覧会に連れて行っても娘があんなにおもしろがって見ていたことはない」と若林さんがもらしていたように、このプロジェクトの原動力であり、魅力のすべては、それがアートであるかどうかなどよりも前に、おもしろいことを見たいという原初的な欲求にふれている、という点にあると思う。
さて、おふたりの展覧会に話を戻すと、前日「ながのアート万博」代表で長野在住のアーティスト宮沢真氏に泊めてもらい(すっごくかわいいねこちゃんがいたり)、長野市内の「アート万博」めぐりをした後、須坂へ。美術館のすぐ近く、果物畑の中にあるそば屋はおすすめ(そばがなくなりしだいおわり)。
美術館では若林さんが待っていてくださり、作品を拝見した後はこれまで氏が上山田で行って来たアート・ワークならぬアート・プロジェクトについて拝聴する。氏は15年前からハンガリーとの間で行われている「日本・ハンガリー現代版画展」を企画・実行するとともに、ハンガリーでの日本人による展覧会やワークショップを積極的に展開。一作家として美術館や公共団体の企画にのって作品をつくるのではなく、自らその場をつくるべくコーディネーターとしても汗をかいてきたわけで、結局私は自分がこの戸倉上山田の地でやろうとしていた「アート温泉」が、すでにしてこの人によって行われていたことを知ったわけである。
若林さんの銅版画は色彩版画で、ほとんどが一版によるものだという。まさに色のコスモスといった趣で、具象よりは抽象にたいへんな魅力を感じる。大胆でエネルギッシュな人柄とは反対に、実に繊細な色づかいを見せている。
ハンガリーから日本に移り住んで12年になるアーグネッシュさんの陶芸作品は、帯状にした粘土をぐるぐると巻いていき、さまざまな形をつくりだすもので、圧倒的な量感と質感は、繊細なお人柄と好対照を見せていた。
美術館は川べりにある個性的な建物で、駐車場からは雑木林を通ってしばらく歩く。会期は今月25日まで。ぜひ足をお運びください。