戸倉上山田アート温泉・企画意図

昨年2004年、私は知人の勧めで、千曲市立戸倉上山田中学校が企画したアート・プロジェクト「とがびプロジェクト」に仙台から参加、はじめて戸倉上山田を訪れました。それはたいへん熱気と創造性にあふれた3日間でした。
プロジェクトは、「中学校を美術館にしよう!」というコンセプトのもと、中学校の「総合的な学習の時間」で美術を取り上げる珍しい例であるだけでなく、長野県信濃美術館の全面的な協力を得てその収蔵品を借り受けたり、県内外からアート作家を募り、生徒とともに作品を制作・展示するなど、社会との関係性を重視した実にユニークで野心的な試みです。
この企画を立案し、実質的にその運営をひとりで担っている戸倉上山田中の美術教諭・中平千尋先生は、プロジェクトの出発点は、美術や教育が社会からかい離してしまっているのではないかという現状認識にあったと言います。この企画を通して地域と教育や美術が結びつき、そのことによって地域全体が豊かになっていくこと、地域を素材やテーマにしたアート制作を、アート作家と生徒たち、そして地域住民が協同して行っていくことで、地域を再発見し、地域を豊かなものとして捉えなおしていくこと、そしてそこに参加した他地域の人も、それを自分の住む町に持ち帰ることで、企画の趣旨を伝播していくこと。そうしたことができるのではないかと中平先生は提案します(こちら)。
私はこの趣旨に賛同し、この地域でどんなことができるかを考えてみることにしました。戸倉上山田周辺地域の方々の協力を得て調査を行なうとともに、知人のアート作家などの協力を得て、戸倉上山田地域全域で展開する「とがびプロジェクト」の拡張版とも言える「とがびプロジェクト2006」をシミュレートした結果が本企画書です。
調査を進める中で、私はこの企画を行う必然性のようなものを実感することができました。「温泉とアート」というと、一見、何の脈絡もない取り合わせに思われますが、戸倉上山田周辺のアート・シーンについて調べた結果、温泉地が広い意味でのアート=芸術が地方へと伝播する折の拠点になっており、またそれをはぐくむ母体になってきたことがわかりました(こちら)。
アートをはぐくんで来た町が、今度はアートにはぐくまれ、元気になっていくように――不備な点は多々ありますが、本企画をひとつのたたき台に、各方面からのお知恵やさまざまなご協力を得て、さらにすぐれた提案がなされ、いつの日かわくわくどきどきするようなプロジェクトが実現されることを願って、ここに本企画を提案いたします。なお、本企画は詳細な作品資料とともに、今年2005年10月8・9日に戸倉上山田中学校で開催される第2回目の「とがびプロジェクト」にて一般に公開され、その後10月15・16日の「更科の里そば祭り」の折には千曲市総合観光会館1Fギャラリーでも公開される予定です。